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:曲の中から溢れ出る感情。それが本当に好きだった。
○夜の七時、ラジオをつければ俺の時間が始まる。 |
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いつもの夜、七時を回る直前にラジオのチューニングを74.7MHzに合わせると、聞き慣れた声がいつもの調子で流れてくる。
その男の名前は木場 栄一。 FMリズムネイションが抱える番組「Radio!Radio!Radio!」のパーソナリティだ。 もう長いこと洋楽専門のリクエスト番組としてやっているが、木場にはちょっとした欠点があった。 それは、スポンサーにあまり頓着していない事。 その商品があまり良くないと思うやいなや、スポンサーのことなど忘れて番組の中で批判をしてしまう。 そんな欠点が実は番組の中だけでなく、木場の私生活まで及んでいることを知っているのは、長年共に番組を作ってきた音響の司村 タイチとディレクターの千葉 大成。 今日も今日とて、しがない日雇いの身の上で番組を進行していたが、いざ終わってみると大成からの厳しいお言葉。 「お前のギャランティーは今日から半分だ」 納得のいかない木場は、タイチに食ってかかる。 しかしその理由を問いいただした事から、木場の人生で最もやっかいな事がゆっくりと動き出したのだった。 |
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○いまさら新人? しかも、こんな時期にかよ! |
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大成が言うには、木場のギャラを半分に切りつめて新人の分に回すということらしい。
しかし、それでは木場の気が収まらない。 なぜなら木場にはどうしても金が必要なわけがあったのだ。 離婚した妻絵の慰謝料と、ホテル暮らしでかさむ生活費。 いくらあっても足りはしないというのに、こんな状況になってしまってはたまらない。 しかし、大成は木場の考えなどお見通しの様子で新人がそこに来ているることを告げるのだった。 |
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○俺は木場 栄一。今日から君の相方だ。 |
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新人の名前は三ツ矢 ふらの。
アナウンス学校を卒業したまでは良かったが、その時の成績が芳しくなかったため、どの局からもお声がかからなかったと言ういわく付きの新人だった。 早速翌日の放送からスタジオに慣れさせたいという大成の言うことをほとんど聞かずに帰ってしまう木場。その夜は、わたれた妻と会う約束をしていたのだった。 そうして木場は、ホテル代を切りつめる為、守衛に頼み込みスタジオの鍵を開けてもらった。 しかし、そこにはアンプを修理していたタイチがまだ残っており、ふらのも守衛に鍵を開けてもらったのだと言ってスタジオに入ってくる。 ひょんな事から結婚の事に話題が変わり、当然のように木場の離婚話へと話は移っていく。 しかし、学生結婚だったという以外に木場はその事をあまり話そうとはしない。 しばらくしてふてくされて様に「口は災いの元なんだ」と言うと、木場は二人を無視して寝てしまうのだった。 |
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○口は災いの元ってね。馬鹿なんだよ結局・・・・。 |
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そして、来るべき時が木場の元に訪れる。
ふらのが素直に話せる事を知った木場は、カウントダウンで使うはずだったスポンサーの曲を、ふらの紹介し、喋らせるために飛ばしてしまったのだった。 その結果、スポンサーは局に対する支援を取りやめられ、番組はあと3日で打ち切りになると言う。 自分の軽率な判断で番組をつぶしてしまった事を、妻と別れて事に重ね、自虐的な態度をとる木場。 そんな木場を殻の外へと連れ出したのは、ふらの、タイチ、そして大成だった。 |
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○あの時、どうしても伝えたいことがあった。 そして、今は・・・・。 |
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番組はまだ3日もある、ならばリスナーの為に最後までやり抜くしかない。
そう決心する木場だったが、局のCD全て借り物だった事が自体を悪化させた。 リクエスト主体の番組にも関わらずCDが全くない。 手持ちの局だけでカバーしきれるはずもなく途方に暮れる4人だった。 しかしふらのの提案が、最終回を無事迎える為の糸口になることに木場はまだ気付くはずもなかった。 たった一つの自分と取り戻し、そして大切な人との繋がりを守るために木場はマイクの向こうに話し続ける。 そして、それが「Radio!Radio!Radio!」の最終回を飾る、長い夜の始まりだった。 |
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